『宝島(Treasure Island)』ナショナル・シアター・ライヴ2015

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 毎年ナショナル・シアターによる舞台をいくつかピックアップして世界中の映画館で上映する「ナショナル・シアター・ライヴ」。今月はロバート・スティーヴンソン原作、ポリー・フィンドレー演出による『宝島』であった。

 脚本を手がけたブリオニー・ラヴェリーによって、主人公ジムをはじめ、何人かの役柄が女性へと変更されていた。”Girls need adventures, too”というラヴェリーの言に異論はないし、この翻案は作品の雰囲気にはまっていたように思う。元々原作でも子ども扱いされるジムは、女の子だということで更に軽く扱われる。これはジムが大人に対して抱く反骨心をより引き立てていた。なによりジム役のパッツィー・フェランが素晴らしい。男の子とも女の子とも言いがたい未分化な様態を見せるが、かといって子役のような未成熟さは感じさせない。ダボダボのパンツと妙に大きな眼は往年のコメディアンのようでもある。性の変更によって原作と唯一違いが生まれているとすれば、ジムとジョン・シルバーとの関係だろうか。原作では擬似親子(父子)の関係の二人だったが、本作では父娘にとどまらず男女の関係の萌芽を匂わせるに至っている。

 とはいえ、本作最大の特徴にして見どころは、オリヴィエ劇場のセリの使い方である。ロンドンのオリヴィエ劇場は古代ギリシア風の円形の舞台を持ち、その中央に大掛かりな円形のセリを持つ。優に二、三階建ての高さはあろうセリであるが、この地下から上がってくるものが毎回異なるのだ。時にそれはうらぶれた宿屋であり、宝島の地下洞窟であり、そしてジェリー・ルイスの『底抜けもててもてて』を思わせる(それを引用したゴダールの『万事快調』でもよいが)船体をそのまま輪切りにしたような複数階層を持つセットまでもが地下から現れる。

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写真:ジェリー・ルイス『底抜けもててもてて(The Ladies Man)』1961


 『宝島』は海洋への冒険譚であり、普通に考えれば水平移動の物語だが、その一方で星を見上げ、宝島の「インナースペース」へ潜入していく縦の物語でもある。その意味でセリを最大限に活用し、縦への運動を示した本作の解釈は正しい。この舞台装置を作り上げたアート・ディレクターと、それを許したナショナル・シアターの予算規模に脱帽である。

 

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