茂木健一郎流勉強法(「脳の上手な使い方」『何のために「学ぶ」のか』2015)
それぞれの分野の学識者による中学生相手の講義録である。子ども向けコンテンツというのは往々にして学者の地が出る気がする。中井久夫に言わせれば「専門家はジュニア向きの解説書を書くとき、とても真剣になる。レベルを落としたお子様ランチではない。名著が少なくない。」*1
別の目的で目を通した一冊だったが、茂木健一郎が提唱していた勉強法が面白かった。具体的な勉強法も参考になったし、「苦労から情熱は生まれる」というのはなかなか刺激的である。
忘備録も兼ねて、簡単にまとめておく。
「自分に無理めの課題」を設定して、それを超える
快感と喜びを生み出すドーパミンは、少し自分には無理かな、と思うくらいのレベルのことに挑戦して、それをクリアできたときに、いちばんよく出る。
脳の仕組みとして、快感を生み出す行動は「クセ」になり、自発的に繰り返すようになる。つまり、無理めの課題設定→クリア→更に無理めの課題設定→…というサイクルが生まれる。これが「強化学習」。「こうした強化学習のサイクルを、いかにたくさん回すか。それが「脳をうまく使いこなす」コツだ。」(111頁)
おすすめの勉強法1:「タイムプレッシャー法」
少し無理めの制限時間を設けてチャレンジ。クリア出来たら更に短く。徐々に制限時間を短くして、自分で自分のハードルを上げていく。その度にドーパミンの分泌が促され、次はもっと短時間で解こうと努力するようになる。こうして高い集中力が身につく。
おすすめの勉強法2:「瞬間勉強法」(「タイガー・ジェット・シン式勉強法」)
余計なことは一切省略して、やるとなったら一秒後から実質に入る。「九時になったら勉強しよう」「あと30分ゲームをやったら勉強しよう」のような真似は即刻中止して、思い立ったらすぐ机に向かう。
!注意点!
目標は他人の強制ではなく、自分で自分に設定すること
イヤイヤだと当然ドーパミンも出ないので、やっても楽しくない。サイクルが生まれない。
絶対に他人と比較しないこと
ドーパミンが出るのは「自分にとっての進歩」があったとき。「誰かと比べて優れていた」ときではない。
いつも他人と比較して劣等感を抱いていると、そのことをだんだん見ようとしなくなる。避けるようになる。「どうせダメだから…」と、自分が勉強していないことも見えなくなる。試験の時だけ付け焼き刃で勉強して、赤点だけは取らないように、と自分で自分をごまかす。そしてどんどん悪循環に陥っていく。「強化学習」のサイクルとまったく逆のサイクルが回ってしまうのだ。(113-4頁)
情熱とは苦労することから生まれる
以上の勉強法がラクではないが、苦労の大きさに比例して、達成したあとの快感も大きい。「「苦労は買ってでもせよ」と昔からことわざにいうのは、ゆくゆくは自分のためになるからなのだ。」(120頁)
学ぶことは苦労であると同時に喜びでもある。そして学ぶ喜びは、脳が感じる喜びの中で、最も深い喜びなのだ。だからドーパミンがたくさん出る。
脳のうまい使い方とは、できるだけドーパミンを出すこと。どうすればいいか。自分にとって無理めの課題を設定して、それをクリアすること。劣等感は持たない。模試の判定や偏差値は、他人と比較するための物差しではなく、自分の進歩の目安として使う。そして情熱を持って苦労する。(122頁)